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ゴルフ小説|こちら港区ゴルフィ編集部 第11話 ~スイングはリズム。彼女がそう教えてくれた。藍ちゃん、フォーエバー!~

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TRACKMANで弾道測定してきた


編集部の雰囲気が朝からおかしかった。編集部というよりもジャンボさんとケーシーの様子がただごとじゃないのだ。編集長のジャンボさんにはまったく生気が感じられず、ケーシーはいつもに増して動きがおかしかった(生気らしい生気はもともとあまり感じない人だ)。


理由はある程度予想できなくもなかった。ゴルフを愛する人間なら、なかなかの一大事だからだ。 面倒くさかったが、一応、ジャンボさんに声をかけてみる。


「ジャンボさん、大丈夫ですか?」


「タジィ、大丈夫なわけがないだろう。どうしたらそんなに能天気でいられるんだ。おまえには現実が見えてないのかい?」


「はあ、現実ですか……」(やはり面倒くさい)。


「大丈夫という言葉の意味が俺にはわからないよ。なあ、ケーシー」


ジャンボさんは、そこで電池が切れかけたロボットのように微動だにしないケーシーに声をかける。ケーシーはコマ送りのようなカクカクした体の動きでジャンボさんと僕の方に体を向けて言った。


「タジィ、君には感情というものがないのか。感謝という言葉を知らないのか。もし、そういうものが少しでもあるなら、そんなふうに平気でいられるというのがボクには信じられない」


限りなくロボット的なケーシーに感情うんぬんと言われてもと内心思ったが、黙って僕は聞いていた。


「だろ、ケーシー。タジィというのは冷たいやつなんだよ。こういうやつなんだ。タジィ、まさか昨日のアレを見てないわけではないだろうな?」


「はあ、アレですよね、アレ」「そうだよ、アレだ」


僕はアレが何かわかっていた。しかし、事情があって観ることができなかったのだ。


「実は昨日、田舎の友達が遊びに来ていて……」


「う、うん? 今、なんて言った? まさか見てないとでも?」


「はい、録画をし忘れてしまって……」


「えっ、マジで言ってるんですか? タジィさん!!」


離れた場所でコピーをとっていたバイトの愛ちゃんが少し怒ったような声を出す。
そしてジャンボさんが哀れみを含んだような口調で言う。


「忘れること自体どうかしてるよ。まさか、ニュース関連も見てないんじゃ?」


「そうなんです。お酒たくさん飲まされて酔っ払って早めに寝ちゃって・・・」


「アンビリーバボー。信じられない。意味がわからない。ゴルフィ編集部に在籍しながら、なぜその体たらくなんだ。いや、違う。俺が悪いんだ。俺の教育の仕方が悪かったんだ。そうだ。タジィ、ごめんな。アレを見ないで、平気で眠れるようなメンタリティにしてしまった。これは俺の責任だ。タジィ、すまなかった」


話が妙な方向に行ってしまっている。ジャンボさんがアンビリーバボーなんて言うのだけでも壊れかけなのに、さらに意味不明な反省をし始めてしまっている。正直、面倒くさすぎる。ジャンボさんにこれほど動揺を与えるのだから、やっぱり彼女はスゴイと思った。


今度はケーシーがブツブツ何か言っている。


「リズムがな。タイミングがずれている。バックスイングからダウンスイングのスピードがあの時とは違う。角度も。日本で年間5勝、6勝とした時、世界ナンバーワンになった時とは少し違うんだ。スイングはリズムがもっとも大事……それは彼女が一番よくわかっているはずだ」


「ケーシー、わかるよ。俺もそう思っていた。だが、まだ復活できると思っていたんだ、彼女なら。いい時も悪い時もその時間の使い方を十分わかっている人だから」


ジャンボさんが立ち上がって窓の外を見ながらそう言った。ケーシーもなぜか立ち上がってジャンボさんの横に並んだ。


「そうだな。ボクもそう思う。だがな、もう十分だ。ボクたちは彼女にただ感謝すればいいんだ」


ケーシーがそう言ってジャンボさんの肩に手をかけた。それにしても、なぜ二人は並んで立っているのだろう。その後姿には惜別の哀愁とともに、とにかく面倒くささが漂っていた。
僕は仕方なく、「すみません。藍ちゃん、見れなくて……」と言ってみた。


「言うな、タジィ! その名前を出したら、俺たちは涙をこらえられなくなる」


ジャンボさんがそう言うと、ケーシーは近くにあるティッシュをそんなに早く動けるのかと思えるほど高速に5枚抜き取って鼻をかんだ。 まさか二人がここまで宮里藍ちゃんのファンだったとは思わなかった。数日前の衝撃の引退宣言から確かに二人はおかしな言動が多かったのだ。


結局、僕はその場で、国内最後かと言われている前日のサントリーレディースオープン最終日を正座して見させられた(ケーシーがPCで録画したものだ)。


藍ちゃんは、全盛期のような爆発力は見られなかったが、26位タイに食い込んだ。最終日は、アプローチからのチップインバーディー、バンカーからのチップインバーディー、最終ホールはカラーからロングパットをパーセーブ。まさに、藍ちゃん劇場だったと思う。
最終ホールを、大勢のギャラリーが、本当にたくさんのギャラリーがとり囲んでいた、幾重にも。見たことのない光景。泣かないと言っていた藍ちゃんの目には、涙が光っているように見えた。


僕もその姿を見て感極まってしまった。ジャンボさんもケーシーもバイトの愛ちゃんも泣いている。きっと3人は昨日もこの中継を見て泣いてたはずだ。
たしかに、映像を見逃した僕はバカだった。みんなに責められても仕方がない。おそらく、こんな風に引退して見送られる選手は二度といないんじゃないかと僕は思った。


僕は藍ちゃんのスイングをはじめて見たとき、衝撃を受けた。こんなにゆっくり振ってもあんなに飛ぶんだと思った。速く振ったり、マン振りすれば飛ぶわけじゃないんだと思った。スイングはリズムなんだと理解したんだ(理解しても上達はしないが……)。
でも、映像見れてよかったっす、ジャンボさん、ケーシー、ありがとさんです。


ありがとう、藍ちゃん、フォーエヴァー!



つづく





この記事を書いたライター

東龍太郎

東龍太郎

1年中カラダのどこかが痛い満身創痍の“へたれゴルファー”。アマならではの、ゆるいゴルフネタをご提供!

http://golfee.jp/
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